「諸概念の迷宮(Things got frantic)」用語集

本編で頻繁に使うロジックと関連用語のまとめ。

【用語集】「マルクス主義流フェミニズム」の基本パラダイム

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カール・マルクスドイツ・イデオロギー(1846年)」の再読中、マルクス主義フェミニズムの根幹となったであろう記述を見つけました。この著作の特徴は「私的所有と分業こそが利益再分配の不平等の大源流」と定義付けている事で、その一環として既に「夫による妻と子供達の奴隷化」が例示されているのです。

  • この時点では問題を質的に把握したに過ぎないが「剰余価値(1847年)」において「搾取=階級社会において生産手段の所有者が直接生産者をその生活維持に必要な労働時間以上に働かせ、その労働生産物や成果を剰余価値として取得すること」なる概念が提示され、量的把握についても先鞭が付けられる展開を迎える。

ジョン・スチュワート・ミル自由論(1959年)」を大源流とする古典的自由主義フェミニズムより10年以上遡る快挙!!と快哉を叫びたいところですが…

二月/三月革命(1848年~1849年)より前とあっては、かえって「古過ぎる」問題が急浮上してくるのを避けられません。

  • そもそも歴史のこの時点における共産主義運動は中世における「政教一致の原資共産主義への回帰運動」…

    オーギュスト・ブランキを輩出した(フリーメイソン同様中世秘密結社制を色濃く残す)炭焼党(イタリア語: Carbonari=カルボナリ、フランス語: Charbonnerie=シャンボリー)やヴァイトリンク原始キリスト教的清貧を旗印とするメシア主義や(そのオーギュスト・ブランキが傾倒したグラックス兄弟の改革を理想視する)ブバーフの陰謀(1796年)などのごった煮に過ぎなかったともいえよう。

    ナポリに本部を置き(のちにパリに移転 )、19世紀前半にイタリア全土に支持層を広げた。その組織は徒弟制型の階層構造になっており、徒弟は親方に従属する。

    秘密結社の常として、組織は仲間内にのみ解しうる記号や符牒を有していた。党員は、握手の際に秘密のサインを示すことで互いを同志か否か識別。サインは位階ごとに異なっていたという。また徒弟は薪の束、親方は手斧をかたどった飾りを着用した。

    更に、党内では独特の隠語が用いられた。党員は自らを賤業とされた炭焼人に見立て、社会をボスコ(Bosco:森林)、政府や与党をルーポ(lupo:狼)、党員の秘密の集会所をバラッカ(baracca:山小屋)、その内部をヴェンディタ(Vendita:炭売り場)、党員でない者をパガーニ(pagani:異教徒)と称し、他の党員と挨拶を交わす際はブオン・クジー(buon cugino:良き従兄弟)と呼び合った。なお、党員は宗教に言及することを固く禁じられていたが、実際には守護聖人を定めてこれを崇拝するなど、宗教的色彩を帯びていた。

    彼らの掲げた「自由・平等」という高邁な理想は、しかし、これに背く者に対しては厳罰(処刑を含む)をもって臨み、また専制打倒という大義のためには、殺人をも厭わないとする過激な思想をも包含していた。

    19世紀前半に遍歴職人活動家としてスイス、フランス、イギリス各都市で義人同盟を組織した時代のヴァイトリングは、メシア主義を根拠とするキリスト教的扇動家として知られ、多くの職人たち(特に欧州全土に出稼ぎに出ていた19世紀前半期ドイツの手工業職人)をひきつけて離さなかった。

    処女作「人類、そのあるがままの姿とあるべき姿(Die Menschheit, wie sie ist und wie sie sein sollte, Paris, 1837年)」では機械化の促進による労働の軽減および時短による自由時間の創出を要求し、農民や職人が同時に芸術家や思索家でもある共同社会財産共同体(Guetergemeinschaft)」の概念を提唱。

    雑誌「ドイツ青年の救いを叫ぶ声(Der Huelferruf der Deutschen Jugend,1841~1842年)」や「貧しき罪人の福音(Das Evangelium eines armen Suenders, Berlin 1843年執筆、1845年刊行)」ではトーマス・ミュンツァー的な千年王国論・メシア共産主義を説き、実践面では社会的匪族(Sozialbandit)による徹底的な所有権攻撃を提起。

    旧約聖書にもまた、私有財産は神によって選ばれた人びとに尊重されない、とある…諸君はキリスト者だ、そうだろう? だから諸君は、少なくともコムニオーンとコムニステンという言葉について、名前くらいは知っていよう」。コムニステンはコムニオーン(共同の食事)から由来すると語ったり「ヤーヴェはモーセの口を借りて、ユダヤ教徒は搾取者エジプト人から物品を奪いかえせと言った」として盗奪を扇動。アメリカに渡ると中国における太平天国の乱(1851~1864年)をニューヨークのドイツ人に伝え洪秀全上帝会(ヤーヴェの会)を組織して原始キリスト教的平等組織の樹立を目指したと報道し「ついに中国に貧しき罪人エスの弟がメシアとして出現した」と喧伝した。

    しかし19世紀後半に入ると科学的なものの見方が人びとの間で勢いをつけ、とくに進化主義=ダーウィニズム的な考え方に労働者大衆と社会主義指導者たちが慣れ親しむようになる。それでメシア主義はそのままの形態や宣伝方法では労働者の支持を得にくくなっていき、合理主義と物的欲望拡大の前に、無力となっていった。

    かくして原始キリスト教的清貧を旗印とするプロパガンダよりもダーウィニズム的なプロパガンダが俄然優勢となる時代が到来したのである。

  • この時代における家族論といったら「空想主義的社会学シャルル・フーシェによる「(キリスト教社会主義論に立脚する)一夫一妻制解体論」まであった事を忘れてはならない。彼が主著「四運動の理論(1808年)」の中で提唱したファランジュ(新共同社会)論は無政府主義者プルードンにまで影響を与え、その精神性が後にフランス社会学を特徴付ける「アソシアシオン(協同体)志向」に継承される。

  • だからマルクス主義者の多くは義人同盟(Bund der Gerechten,1837年~1847年。エンゲルスブリュッセルに開設した「共産主義通信委員会(独:Kommunistisches Korrespondenz-Komitee,英:Communist Correspondence Committee,1846年~1847年)と1847年6月以降合併して共産主義者同盟(独: Bund der Kommunisten,英:Communist League,1947年~1952年)となる)のカール・シャッパーが1943年以降マルクスエンゲルスをこれら旧態依然のイデオロギーに対する刺客として呼び込んで「共産党宣言(Manifest der Kommunistischen ParteiあるいはDas Kommunistische Manifest=共産主義者宣言,1848年)」が執筆された時代以前まで遡らないし、その「共産党宣言」も直後に勃発した二月/三月革命(1848年~1849年)の影響で「1860年代ドイツでは2冊が秘蔵されるのみ(ラッサール)」という有様だった。

こうした経緯から実際のマルクス主義フェミニズムは概ねエンゲルスマルクスの遺稿を整理する過程で発案した「家族・私有財産・国家の起源(Der Ursprung der Familie, des Privateigenthums und des Staats,1884年)」を起点として捉える様です。

エンゲルスは「家族・私有財産・国家の起源(1884年)」の中で封建制度から土地私有制に切り替わった事によって女性の地位が大きな影響を受けた、とする。

  • そして「実際に女性の地位が影響を受けたのはそれ以前の変化から」とした点においてバーバラ・ウォーカー流フェミニズムは、かかる意味合いにおけるマルクス主義フェミニズムの批判的継承だった事になる。

私有制において、土地またはその他の生産手段を持たない人は奴隷のような立場にある。エンゲルスはそういった人々の立場を「私有制のもとで生活するには所有者のために働くことが義務である」と表現。この種の制度への移行により公私の領域が分断され、賃金を得られる仕事に男性ばかりがありつけるようになったとする。

  • この部分についてはラッサールの歴史段階発展説を批判的に継承した側面が見受けられる。おそらくは産業革命導入がもたらす資本主義的発展に伴う伝統的共同体の崩壊や貧富格差の拡大を受けての批判的継承。

エンゲルスはさらに「女性の地位が低いのはその生物学的性質でなく社会的関係が原因で、女性の労働力とその性別上の能力を制御せねばならないという男性側の取り組みが核家族内で徐々に制度化されたのだ」と述べる 。「処女を守る風潮、それを破った者を有罪とし体罰を与える制度、といった女性の性的モラルに関連する社会現象が広まるにつれ女性は自分の夫に従うようにと求める同調圧力が強まる」。そしてついには「古代生産システムにおける新興の奴隷所有者階級の長による個人資産の包括的支配、そしてそれに伴う自分の財産が自分の子孫にのみ相続されてほしいという考え方」の延長線上において「女性が貞淑で性的に忠実であること」が賞賛の対象とされる時代が訪れる。なぜならそれらによって所有者階級の男性に占有された女性の性的な生殖能力を独占的に利用できることが保証されるからである。

このようにエンゲルスは性差別は階級差別と密接に関わっていて「社会における男女の関係」は「プロレタリアとブルジョワジーの関係」に相似すると考えたのである。この観点からすれば女性が従属的立場にあるのは階級差別が原因であり、あらゆる階級差別は「(人種差別のように)資本家や支配者階級に利益をもたらす」目的で存在している。こうして「資本主義社会が資本家階級や労働者階級の男性を懐柔する為、女性より男性を優先し、女性の家庭内労働に対して賃金を払うのを拒否する展開」が顕現。

なるほど…

  • どうしてシャルル・フーリエがこうした系譜の頂点近くに外せない要素として現れるかというと、彼こそがまさに社会科学に対する「数理としての直積構造=(情念引力による)系列(serie)と群(groupe)の相互関係(マトリクス)」概念の導入者だったからである(まだちゃんと検証してないが、確かにこのパラダイムはそれ以前の時代には存在しなかった可能性がある)。

  • そしてまさにこの瞬間から「プライオリティの問題」が発生する。さて「宗教的対立」「民族的対立」「地主と小作人の対立」「資本家と労働者の対立」「男性と女性の対立」解決を優先すべきはどの問題?因子分析(Factor Analysis)や主成分分析(PCA=Principal Component Analysis)などを用いれば確かに計算上優先すべき評価軸を絞り込み、さらに取り組むべき優先順序まで概ね一意に定まるが、実際の問題解決には「手続き的非可換性(Procedural Noncommutative)」すなわち「(相互依存性の連鎖関係を見誤り)取り組む上での優先順序を間違うと逆に事態を悪化させる」も意識せねばならなくなる。

かくして「(フランス革命を牽引した「第三階層こそが社会の主体たるべき」なるスローガンに典型的に見られた様な)階級革命論」は、自らの自明な内的発展過程において必ず突き当たるパラダイム・シフトによって本来の持論だった「(行列式=0すなわち次元が潰れた望ましくない状態たる)線形階層論」を「歴史の掃き溜め」送りにせざるを得なくなるジレンマを抱える事になった訳ですね。