「諸概念の迷宮(Things got frantic)」用語集

本編で頻繁に使うロジックと関連用語のまとめ。

【コンピューター化に至るまでの数理モデルの歴史】「計算を物理的に補助してきた道具」の歴史について①

計算を補助する器具の使用は数千年前まで遡ります。その多くは普通に指で数を数えるやりかたの延長線上に現れ「電卓」以上の機能を持たされる事はなかったのです。

計算機の歴史 - Wikipedia

  • 最初期の計数器具として tally stick と呼ばれる原始的な割符のようなものがあった。肥沃な三日月地帯では小石(粘土球、粘土錐など)を家畜や穀物の数のぶんだけ容器に入れて封印しておく記録保管法が広く使われていた。算木もこのグループに入る。

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  • 最初期の算術器具としてそろばん(abacus)がある。「ローマそろばん」は紀元前2400年ごろバビロニアで使われ始めた。その後、様々な計算用の盤や卓が発明されてきた。中世ヨーロッパではテーブルにチェック柄の布を広げ、その上でマーカーをある規則に従って動かし、金額を計算するということが行われていた。

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  • 古代から中世にかけて、天文学に関する計算を行う目的でアナログコンピュータの一種が何度か考案されてきた。古代ギリシア紀元前150年から100年頃)ではアンティキティラ島の機械やアストロラーベが作られており、既知の最古のアナログコンピュータとされている。似たような初期の器具として星座早見盤やアブー・ライハーン・アル・ビールーニー紀元1000年頃)の発明した計算機械、アッ=ザルカーリー(紀元1015年頃)の発明したどの緯度でも使えるアストロラーベなどがある。他にも中世イスラムでは天文学者や技術者が様々な天文用アナログコンピュータを作っており、中国では宋代の蘇頌(紀元1090年頃)が天文時計の塔を作った。

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  • 1206年、アル=ジャザリが「城時計castle clock)」という天文時計を発明。世界初のプログラム可能なアナログコンピュータとされている。黄道十二星座、太陽と月の軌道、月相を示すことができる。月相を表した針が門の上を移動し、門が1時間おきに自動的に開く。そして、5体のロボット楽団が音楽を演奏する。その動力源は水車で駆動されたカムシャフトでてこを操作することで得られていた。昼と夜の長さをプログラムの変更で変えられるようになっていた。

    アル・ジャザリー(Al-Jazarī 、بديع الزمان أبو العزّ بن إسماعيل الرزّاز الجزري)、全名 Badī' al-Zamān Abū al-'Izz Ibn Ismā'īl ibn al-Razzāz al-Jazarī(1136年 - 1206年) - Wikipedia

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  • スコットランドの数学者で物理学者のジョン・ネイピア (1550年〜1617年) は、乗算と除算がそれぞれ元の数の対数の加算または減算で実現できることに気づいた。世界初の対数表を作る過程で多数の乗算を行う必要があったため、ネイピアは乗算と除算ができるそろばんのような器具「ネイピアの骨Napier's bones)」を考案した。実数は直線上の距離または間隔として表現できることから、1620年代に計算尺が発明され、乗算や除算がそれまでより格段に素早く行えるようになった。計算尺は技術者や仕事上で数学的な計算を必要とする人々が数世紀に渡って使い続け、最終的に電卓の登場で役目を終えた。
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  • ドイツの博学者ヴィルヘルム・シッカートは1623年に calculating clock を設計したが、製作中の1624年に火事で破壊され完成をあきらめた。1957年に2枚のスケッチが発見されたが、既に計算機の歴史に影響を及ぼすには遅かった。

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  • 1642年、まだ十代だったブレーズ・パスカルが計算機の先駆的研究を始め、3年後に完成させて50台の試作機を作った。このため一般にパスカルが機械式計算機の発明者とされている。その後10年間に20台の(Pascaline と称する)計算機を作った。

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  • ゴットフリート・ライプニッツは1672年、Pascaline を改良して乗除算を直接計算できるようにした Stepped Reckoner を発明。重要な点は段付歯車機構である。ライプニッツは「立派な人間が労働者のように計算などという誰でもできることに時間をとられるのは無駄だ。機械が使えたら誰か他の者にやらせるのに」と言ったという。ライプニッツは二進法の提唱者でもあり、今日のコンピュータは全て二進法に基づいて動作している。しかし1940年代ごろまで、計算機は十進法を使っていることが多かった(チャールズ・バベッジの1822年の機関や1945年のENIACなど)。ENIACのリングカウンタは機械式計算機の数字歯車の動きをエミュレートしたものだった。

    http://www.3quarksdaily.com/.a/6a00d8341c562c53ef01a3fd2a054e970b-500wi

  • 1820年ごろ、チャールズ・ザビエ・トーマスが世界初の量産された機械式計算機アリスモメーターを作った。これは四則演算が可能だった。ライプニッツの計算機を元にしている。

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  • 1833年チャールズ・バベッジは数表作成用の階差機関の開発からより汎用的な解析機関へと興味を移した。1835年に残した記述によればそれは明らかに「電卓」に域を超える内容だったが、残念ながら完成しなかった。
    *当時の科学者や学者はいちいち関数から答えを導出する手間を省く為に数表を使っていたが、検算が適当で間違いだらけだった。バベッジはその状況に怒り狂って階差機関の開発に取り掛かったといわれている。

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  • 日本では矢頭良一が1903年に自働算盤という機械式計算機の特許を取得。歯車式で1個の円筒と22枚の歯車などで構成されている。乗算の桁送りと計算終了を自働判定する機能もある、とされている。200台以上が主に軍や政府に売れた。

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  • 20世紀に入ると機械式計算機、キャッシュレジスター、会計機などは電動機で駆動されるようになり「コンピュータ(計算手)」という言葉がそういった計算機械を使って計算を行う職業を意味する様になった。1920年代、ルイス・フライ・リチャードソンは天気予報に興味を持ち、多数の計算手を集めて気象モデルの数値解析を行うことを提案。しかしナビエ-ストークス方程式を使った気象データの数値解析には今日でも強力なコンピュータが必要である。

  • 1930年代ごろからフリーデン計算機、マーチャント計算機、モンロー計算機といった企業が四則演算のできる機械式計算機を製造販売し始めた。マンハッタン計画において、後にノーベル賞を受賞したリチャード・P・ファインマンの指揮で多数の女性数学者を計算手として集め、微分方程式の数値解の計算を行った。真空管を使った初期のコンピュータは信頼性が低かったため、マーチャント計算機では八進法版の機械式計算機を発売。コンピュータの計算結果の検算に使った。

  • 1948年、クルタ計算機が登場。小型で携帯可能な機械式計算機で乗算と除算もできる。1950年代から1960年代にかけて、様々な機械式計算機が登場した。1970年代に入ってからも手回し式の機械式計算機は以降も電卓にとってかわられる直前までさかんに使われ続けた。addiator、コンプトメーター、モンロー計算機、クルタ計算機、Addo-X、などがある。日本では「タイガー計算器1923年〜1970年)」が代名詞となった。

  • 世界初の完全電子式の卓上計算機はイギリスの ANITA Mk.VII (1961年) で、表示にはニキシー管を使い、177本の小型サイラトロン管を使っていた。1963年6月にはフリーデンがEC-130を発売。こちらはトランジスタを使い、5インチのブラウン管に13桁の数値を表示し、逆ポーランド記法を採用していた(価格は2200ドル)。後継のEC-132では、平方根と逆数を計算する機能も追加されている。

  • 1965年にワング・ラボラトリーズが発売したLOCI-2は10桁のトランジスタ卓上計算機で、ニキシー管で表示し、対数も計算できた。
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もちろんこうした機器は1970年代における「電卓」の登場によって一掃される事に。