「諸概念の迷宮(Things got frantic)」用語集

本編で頻繁に使うロジックと関連用語のまとめ。

【用語集】「西海岸にはもう何も残っていない」

映画「ソーシャル・ネットワーク(The Social Network,2010年,ノンフィクション「facebook 世界最大のSNSビル・ゲイツに迫る男(The Accidental Billionaires,2009年)」の並列企画)」が東海岸から脱出して西海岸でSNSサイトFacebookを創設したマーク・ザッカーバーグを英雄として称揚した時点で、既に水面下における東海岸シフトは始まっていた。

とはいえFacebook脱出者の多くの移住先はInstagramで、Facebook自体はこれを買収する事によって顧客流出を最小限に防いだ。衰退するどころか表アカと裏アカの両方を抑えた事で結果として見掛け上の顧客を2倍に増やす錬金術を達成したとすらいえる(そういえば投資家筋の記事でこれを指摘した例を見た事がない。すっかり騙された?)。そしてその分だけ虚業性を強めたのだった。

 「西海岸にはもはや何も残ってない(だから東海岸に脱出したい)」なる発想は女性監督グレタ・ガーウィグが自らの少女時代を振り返った映画「レディ・バード(Lady Bird, 2017年)」にも見て取れる。この作品の舞台は2000年代前半サクラメント(西海岸農業の中心地)であり、大筋としてはニューヨーク留学を夢見る女子高生が(2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の影響を受けての入学大量辞退の結果)ニューヨークの大学に補欠留学をするという内容だが、(新海誠映画「君の名は。(Your Name. ,2016年)」同様)1980年代前半を席巻したハリウッド青春搾取ミュージカルすなわち(マンハッタンとブロンクス地域格差が著しい)「Saturday Night Fever(1977年)」「Fame(1980年)」「Times Square1980年)」「Staying Alive(1983年)」(舞台をフィラデルフィアに移した)「Flashdance(1983年)」(地方都市に大都市住民が乱入してくる基本構造が固まった)「愛と青春の旅だち(An Officer and a Gentleman, 1982年)」「Footloose( 1984)」「Street of Fire(1984)」の物語構造を採用しつつ、ヒロイン補正がTVゲーム「スペランカー(Spelunker, 1983年)」並にゼロ(車から飛び降りたら骨折するし、現れる男は同性愛者や遊び人ばかり)なのが独特のユーモアを醸し出す(しかもその展開にちゃんと意味があり、カソリック教徒たる彼女をキェルケゴール的実存を考える立場に追い込んでいく)。一方全く笑えなかったのが「西海岸農業の中心地」としてのサクラメントが少数のスペイン地主とメキシコからの出稼ぎ小作人によって運営され、現地経済が完全にそれから切り離されている現実を(そういう現実に一切言及しない事により)冷酷なまでに如実に示した事。「君の名は。」を含め地方都市に舞台を移してからのハリウッド青春搾取ミュージカルのセオリーでは(外世界から乱入してくる風来坊を除く)主要登場人物が工業なり農業なり現地産業に従事していたものだが…(ニューヨークが舞台でも「Rocky(1976年)」辺りでは高利貸しの取立てとか、冷凍庫での精肉作業などが生々しくでてくる。そういえば最終段階で現れたStreet of Fireだけは異なり、その延長線上に成立したとも考えられなくはない)。いずれにせよ、これだけは言えよう。はからずしもスパイク・リー監督映画「Do the Right thing(1989年)」がロサンゼルス暴動(1992年)の予言となってしまった様に、この作品も「アメリカ国民の分断」問題噴出の予言となってしまったのである。