「段階的発展説」そのものにも歴史があります。
マルクス主義と異なり「社会民主主義の父」ラッサールは暴力革命を前提とせず、社会は連続的変化があるのみと考えました。「既得権の体系全2巻(Das System der erworbenen Rechte、1861年)」に記された「私的所有」概念の段階的発展史は以下。
- 古代に現れた政教一致体制…神殿に君臨する神官団が領土も領民も全人格的に代表する権威主義体制。経済人類学者カール・ポランニーいうところの「政治も経済も全て社会に埋め込まれている段階」であり、ラッサールはまずその登場自体を「神が領土と領民を全人格的に代表する段階からの脱却」と捉えた。神殿を破壊されても信仰を存続させるにはそれを個人単位で内面化するしかないが、それは神殿の求心力を低下させるので衰退/消滅(非キリスト教徒には分かりにくい例だが、要するにヘブライ民族が辿った運命を示唆している模様)。
- 中世に現れた封建体制…「領主が領土と領民も全人格的に代表する権威主義体制」「ギルドが商業利権を全人格的に代表する権威主義体制」。国家が生命の安全や私的所有や商売の自由を保障する様になり、特定の庇護者に依存する必要がなくなって衰退/消滅。
- 資本主義体制…互いに個人として地主と小作人、資本家と労働者が対峙する社会。これがどういう帰結を迎えるか現段階では予想もつかないが、これまでの人類の歴史から考えてそう酷い事にはならないと信じるしかない。
弁護士だったが故の法的側面からのアプローチ。ラッサール自身は夭折してしまいますが、彼の後継者達はドイツ帝国からの相応の福祉の見返りに(収入制限選挙によって議会の議席を独占する)ブルジョワ階層と対峙する道を選択。国内外の「正統派マルクス主義者」を激怒させます(19世紀末における修正主義の勝利)。こうして「ドイツ社会民主党(SPD)」の波乱の歴史は幕を開けたのです。
ラッサールによる「私的所有」概念の段階的発展説。
- 未開状態(伝統的共同体の営みに全個人が埋め込まれている)
- 古代神殿宗教(神殿の神官団が土地とそこに住む信者を全人格的に代表している)
- 中世封建制(領主が領土と領民を、ギルドが全商権を全人格的に代表している)
- 資本主義社会(互いに個人として地主と小作人、資本家と労働者などが対峙し合う)
歴史段階の切り分け方自体はマルクス主義経済のそれと重なってきます。あえてかもしれません。