「段階的発展説」そのものにも歴史があります。
19世紀ドイツの経済学者フリードリッヒ・リスト(Friedrich List, 1789年~1846年)はドイツ歴史学派に属し国民的体系(national system)、国民的改革体系(national innovation system)の諸理論を発展させた。欧州統合の理論的先駆者であり、その思想が欧州経済共同体の礎となる。
国民国家論
同時代の歴史家アダム・ミュラーと「国家は人間が基本的に必要とする一つのものであるのみならず、人間が必要とする至上最高のものである」という見解を共有していた。国家は国民を保護しなければならないだけではなく、国民性のあらわれそのものであった。「全世界をわがものとするも、国民性が損なわれることあらば何の得るところがあろうか」とも書いている。
発展段階論
国民が経過しなければならない発展段階を5つに分けた。原始的未開状態、牧畜状態、農業状態、農工業状態、農工商業状態である。その国民がどの発展段階にいるかによって、国家が果たすべき役割は異なる。諸国民の間には無限の差異があり、どの国家でもそれぞれの使命を持つ。未開国民を文明化し、弱小国民を強大化するのがすべての国家の使命である。
保護貿易論
かつての重商主義をドイツの情勢に適用し、ドイツを国民として統一し、自由な国民とするためには単なる農業国であってはならず、商業国として独立するためには自国の工業を興さなければならない、と主張。国際貿易で後進工業国がイギリスに太刀打ちするためには、国家による干渉が必要であるとの結論は、アメリカのアレクサンダー・ハミルトンなどの見解とも一致する。
農業制度論
イギリスは工業のための原始蓄積として、農村から過剰人口が流出するにまかせたが、「ドイツはイギリスのようにはなり得ないし、またそうなってはならない」。そしてそのために国内の零細農業を排し、中産農場主を創出する政策を説く。彼らの存在は社会主義への防壁となり、国家を偉大なものにする保障となるであろう。
政治経済学
「政治経済学」は、国民にそれ自身の使命を自覚させるためにあり、経済状態が推移するにつれて変化しなければならない。経済学は静態的なものではなく、より現実の変化に適合したものへと発展しなければならない。アダム・スミスは自由貿易のために十分成長したイギリスのためにその経済学を考え出したが、それは「国民」「国家」の役割を度外視する「万民経済学」である。ドイツの現在の発展段階に適合した学問ではない。
歴史学派
歴史が示す実例を用いて国家への警告とする。ある経済政策、国家の行動が妥当かどうかの基準を普遍的な経済理論にではなく、過去の事実に求めるというこの態度は、シュモラーなどのドイツ歴史学派に受け継がれた。
フリードリッヒ・リストの「五段階発展説」
- 原始的未開状態
- 牧畜状態
- 農業状態
- 農工業状態
- 農工商業状態
同じドイツ歴史学派に属するカール・ビュッヒャーの「三段階発展説」
- 家内経済
- 都市経済
- 国民経済