ここで角川映画(1976年~1993年)配給を手掛けた「天才プロデューサー」角川春樹の功罪について言及しないといけません。
「(ダースベーダーとルークの関係が対応する)スターウォーズ」のジョージ・ルーカス監督や「(コナンと魔術師タルサドームの関係が対応する)コナン・ザ・グレート」の脚本家オリバー・ストーン同様、父親や家父長制といった概念に相当屈託を抱えた人で、最初に手掛けた「ある愛の詩」「いちご白書」もそういう内容だった上に、続けて手掛けた横溝正史原作映画展開などでも、そういう内容の作品ばかり選択した感があったりします。
何となくヒッピー文化の痕跡を引きずっている様に見えるのはそのせいなんですね。
そもそも角川春樹のメディアミックス技法の出発点は映画公開に合わせてエリック・シーガル原作映画「ある愛の詩(Love Story,1970年)」やジェームズ・クネン原作映画「いちご白書(The Strawberry Statement,1970年)」の原作を(ほとんど自力で翻訳して)刊行にこぎつけ大きな売り上げを叩き出した実績にあった。
1970年代前半はTV普及による映画界衰退が明白となった時期で、(フランシス・コッポラ監督映画「ゴッドファーザー(1972年)」の国際的ヒットを受けて企画が通った)深作欣二監督の東映実録ヤクザ映画「仁義なき戦いシリーズ(1973年~1976年)」や(ハリウッド大作パニック映画の国際的ヒットを受けて企画が通った)小松左京原作の東宝特撮映画「日本沈没(1973年)」や「五島勉原作」の東宝特撮映画「ノストラダムスの大予言(1974年、同年の文部省推薦映画)」の制作を契機に体制が改められている。
- 「門外漢」角川春樹がメディアミックス的技法を総動員して映画界に殴り込んだのはまさにこの動乱期であり、その全盛期(1970年代後半~1980年代前半)には映画制作に関連して横溝正史再評価や半村良・森村誠一・西村寿行ブームを確定的なものとし「映画館でしか出会えないアイドル」薬師丸ひろ子を誕生させたりする。
実際には際どい宣伝手段もかなり用いている。
- 今から見返すと横溝正史原作「犬神家の一族(1976年)」の特に予告編にはフランシス・コッポラ監督映画「ゴッド・ファーザー(The Godfather,1972年)」を意識したところが見受けられる。後者は深作欣二監督映画「仁義なき戦い(1973年~1974年)」の大源流でもある。
- 森村誠一原作「人間の証明(1977年)」主題歌 ジョー山中「人間の証明のテーマ」が(世界で初めてMusic VideoのTV放映を宣伝手段として確立した)Queen「Bohemian Rhapsody(1975年)」に酷似していた。
- 映画「悪霊島(1979年)」では、その年解散して話題になっていたビートルズ「Let it be」を、本編と無関係なのに強引に挿入歌に。
- 平井和正・石ノ森章太郎原作映画「幻魔大戦(1983年)」主題歌に、1970年代プログレッシブ界のカリスマだったキース・エマーソン 「Harmagedon Children of the light」を採用。
- 自らの監督した「REX 恐竜物語(1983年)」においてクリーチャー造形に「エイリアン(1979年)」や「E.T.(1982年)」でその名を知られたカルロ・ランバルディを採用。宣伝によって日本人観客にこの作品を同年封切られたスピルバーグ監督映画「ジェラシック・パーク」と同格の作品と信じさせる事に成功し、コカイン所持で逮捕され打ち切られるまでの10週間の間に「ロード・オブ・ザ・リング(2002年)」に抜かれるまでの松竹歴代興行収入(配給収入)1位」という実績を残した。
「(バブル加熱を背景としたトレンディドラマ・ブームなどに立脚した)TV陣営の反撃に屈し始めた1980年台後半時点で潔く身を引いていれば良かった」という声も多い。
- 実際には以降もルサンチマン感情を剥き出しにして形成挽回に執着し続け、五島勉「ノストラダムスの大予言(1973年~1998年)」ブームに便乗して「幻魔大戦」や「帝都物語」によって日本人にハルマゲドン(Harmagedon)到来の恐怖を広める一方、自らをある種の「救世主」として売り込む続けた結果、日渡早紀作「ぼくの地球を守って(1986年末~1994年)」が便乗して加速させた「前世ブーム」や、狩撫麻礼原作漫画「迷走王ボーダー(1986年~1989年)」「天使派リョウ(1990年~1992年)」などが煽った「(ヒッピー/新左翼世代色の強い)選民意識(ただしバブル崩壊による対立構造崩壊もあって「天使派リョウ」では随分と弱体化)」などと相まって「オウム真理教地下鉄サリン散布事件(1994年~1995年)」に至る主要な遠因の一つに数えられる事も。
ここで興味深いのが谷川流「涼宮ハルヒシリーズ(2003年~)」のメインヒロインで、その願望実現能力によって実質上世界を牛耳っている(ただし周囲の努力により当人だけがその事実を知らない)涼宮ハルヒのモデルは角川春樹とする説。
まぁここまで全体構造を俯瞰して初めてやっと「米国ヒッピー運動が迎えた顛末」と重ねられるという話なんですね。